春にタイムトラベル

電車で追い掛ければ春に戻れるなんて、まるでタイムトラベルだ。


もう一度ピンク色の世界に身を置きたくなって、桜前線を追いかけて東北へ。
二十歳の頃からみたいと思っていた盛岡の石割桜に逢ってから、角館へ向かう。




樹齢300年の石割桜は写真で見た以上に太く力強く、どっしりとしていて、とても平地にあるとは思えない巨大な花崗岩を真二つに割ってそびえ立っていた。
昔古本屋で購入した芸術新潮には、『これだけは見ておきたい桜30選』と題して桜巡礼のススメみたいな文章が掲載されている。そこでは石割桜はその力強い姿に、40代で人生の転機をむかえた人が一大決心をする時に、決断を後押ししてくれるであろうと紹介されているのだが。笑
まったくおかまい無しにさっさと見ちゃう。というより桜に人生を重ねることはしない。古くからそこに在り続けるものにただただ感動を覚える。

なぜ、ピンクの世界に来たかったのかと考えてみると、春は優しい。一番優しい。
新緑の若緑は生命力に満ちていて新鮮で眩しく、美しいけど、新一年生がやってきたぞ、ワー!みたいな賑やかさが騒がしいんだよね。それよりは、優しい空気に包まれたかった。


学生時代からの友人が、案内してくれた。彼はすっかり角館マスターになっていた。
友人がもてなしてくれて、ものすごく親切で、私は遅れて春を愉しみ、ピンクピンクピンクの風に吹かれてすっかり何もかも抜け去って、代わりに全身がほんのりピンクに色づいた気さえした。
お土産に買った夜桜の香りのお香を薫きしめて眠りに就こうか。